真夜中の洗濯機

長期記憶にするための覚え書き

テヲフル

SAKANAMONの『プロムナード』という曲にこんな歌詞がある。

プロムナード

プロムナード

朝の十時等々力渓谷で散歩をして
すぐ移動二子玉川の河川敷行って
石を投げて跳ねた水の掛け合いっこをして
日向ぼっこして乾かしながら話をした

SAKANAMON プロムナード 歌詞 - 歌ネット

はじめて聴いた当時は等々力渓谷二子玉川の河川敷の距離感もわかってなかったけど、ひとり暮らしをはじめてやっと同じルートを辿れるようになった。近くに住んだら絶対やろう、と心に決めていた。

等々力渓谷は、想像以上に渓谷だった。都会なのにこんなところあるんだ、と驚いた。

二子玉川の河川敷は、ひとりで行くこともふたりで行くこともあった。河川敷で夕焼けを見ながら飲むビールが美味しいことはここで知った。

藤森元生さんが描いた景色を実際に目の前にして、追体験できていることがうれしかった。これが東京にいることの良さなんだなあと思ったりした。

 

ちょっと遅めに起き、近所のよく行っていたインドカレー屋で昼ごはんを食べた。甘口がガツンと甘くて、おいしい。いつも絶対マンゴーラッシーを頼む。また戻ってくるからな。

ほどなくして引っ越し屋さんが来る。わたしのボンヤリした荷造りにも粛々と対応してくれてありがたかったが、精算のときにステッカーがいっぱい貼ってあるファイルを出してるのを目にして『金の国がツギクルGPでやってたあのネタじゃん』とツボって思いっきり気が逸れる。気が逸れたせいでシーリングライトを積み忘れた。なんかもういいや〜となり、不動産屋さんと相談してそのまま置いておくことにした。さようなら。元気でいてくれよ。

 

とにかく変な街だった。

浮浪者のジジイが朝から駅前でビニールシートを引いて酒盛りをしつつ、あらゆるジャンルの曲を歌い続けている。しかもびっくりするほど上手い。通行人がみんなして絶句していた。

その横で、またしても浮浪者のジジイがクソデカいラジカセから尾崎豊を爆音でかけている。クリスマスのイルミネーションのまん前でかけていたときもあった。たまに見るこの光景にすっかり慣れたおかげで、ちょっとのことでは到底動じなくなった。

寝ていると、外からジジイの怒号や酔っ払った若い男女の奇声が聞こえる。もう少し居酒屋への自粛要請が緩かった去年の今ごろあたりは、丑三つ時になるとデカい歌声が辺り一体にこだましていた。誰かが夜な夜な酒を飲んだ帰り道で歌っているのだ。これにもすっかり慣れた。

フォロワーはわたしの住んでいた街でひったくりに遭ったことがあるらしいし、夜もアレだが朝の治安もまたヤバい。落ちているのがストゼロのロング缶・ピンモンの缶・各種タバコの吸い殻というブレないラインナップ。

本当に変な街だった。

でも、昼間の買い物には困らないし美味しい酒とご飯が楽しめる店がいっぱいあって、いろんなところでご飯を食べたり酒を飲んだりした記憶が蘇ってくる。まだ開いていない店もあったのでそれだけが心残り。年末には近所に住んでいた友達と飲むために帰ろうと画策している。

お気に入りのピザ屋さんがあって、お笑いの賞レースの時は毎回そこでピザを買って食べながら観ていた。

なんだこれ?みたいな場所が結構あって、散歩するのが楽しかった。

ひとり暮らしをはじめたのがあの場所でよかったなあと今では思う。あんなに雑多で混沌とした街はなかなかない。気がする。いろんなことを教えてもらった(防犯面の大事さも含めて)。何よりも1年前よりずっとたくましくなった。

地元以外にいるときはずっと「間借りしてるな」という感覚が抜けなかったけれど、はじめて「もう一回帰りたいな」という場所ができた。友達とも再三話しているんだが、昼間住むのと飲むのに関しては本当に最高の街なんだ。永遠にハシゴ酒ができる。ドがつくほどスラム街でも、悪口が300個くらい出てくる街でも、なんやかんやで愛している。

いくつも歓びがあった。ここに住む決断をしたのは、なんにも間違いじゃなかったなと思う。

 

なんてことを考えながら新幹線に乗る。名古屋あたりまではすごく感傷的になっていて、寂しくてどうにかなりそうだったものの、京都まできた途端にフッ……と吹っ切れる瞬間がきた。

新大阪で重たいスーツケースを抱えながら降りた。

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今日からよろしくな、という気持ちを込めて写真を撮る。

大阪は、仕事以外の記憶だとむかし旅行に来たときに父ちゃんが洋もの(たしかロシア人女性が出ているやつ)のAVをこっそり観ていて、翌朝母ちゃんにしこたま怒られているのを寝たふりしながら聞いていた記憶しかない。わたしも部屋に着くなりペイチャンネルの番組表を盗み見して内心「ほう……」と思っていたので、血の繋がりを嫌というほど感じて何ともいえない気持ちになったのをよく覚えている。

そんな記憶をさっさと塗り替えたい。楽しいこと、いっぱいあるかなあ。見知らぬ土地で、楽しいことを掴んでいけるだろうか。根が暗い人間なので今はまだ100%不安なままだ。エスカレーターの立ち位置にだけは、この数週間でなんとか慣れた。

王将の弁当とサッポロ冬物語と一緒に、不安も少しだけ飲み込む。蒸気でホッとアイマスクでもして寝るか。明日はちょっと遅めでもいいかもしれないがたぶん起きるんだろうな。

寂しくてつい父ちゃんの恥部をインターネットに晒してしまった。すまん。今日だけは許してくれ。