真夜中の洗濯機

長期記憶にするための覚え書き

花束みたいな恋をしたような記憶と、「好き」でつながるということ

『花束みたいな恋をした』を公開直後に観てからというもの、2月中の考え事のテーマは「同じ趣味を通じて、他者とつながること」だった。

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既にいろんな人が言及しているけれど、劇中に出てくる固有名詞の連打といい、菅田将暉さん/有村架純さんの絶妙にリアルな佇まいといい、『自分にも麦くんと絹ちゃんのような瞬間があった、恋をしていた』と誰しもに思わせるような作品だったと思う。

観たあとに自分語りが止まらなくなるような映画が大好きなので堪らなかったし、『愛がなんだ』を観たときと同じくらい背中を流れる冷や汗が止まらなかった。真冬なのにね。

ribboncitron.hatenablog.com

いま読み返すとこの記事、めちゃくちゃ生々しいな。自傷行為かよ。

 

『同じカルチャーが好き』ということをきっかけに、お互いの好きな映画や小説、音楽を共有しあいながら恋に落ちていくふたりの様子を見ている中で、ひとつ引っかかったところがあった。

パンフレット内の有村架純さんのインタビューの中に、わたしが感じていた違和感がそのまま記載されていたので引用させてもらうと、

 

実は絹と麦って、カルチャーについて語り合う以外では、意外とお互いにそこまで干渉し合っていなかった気もするんです。ふたりに足りなかったのは、もっと人間としての深いつながりみたいなところだったのかもしれないですね。

 

ここだ。

麦くんと絹ちゃんは、好きなものの話はしてもお互いのパーソナリティには深く踏み込もうとしていない。作品内で意識的におこなわれていたことかもしれない、というのはじゅうぶん理解しつつも、どうしても引っかかった。というか、『お互いに踏み込む必要を特に感じなかったんじゃないか?』という、自分の経験に基づいた感覚が確かにあった。

 

同じくパンフレット内に掲載されている三浦しをんさんのレビューが素晴らしく、事あるごとに読み返したい内容だったので一部引用させてもらう。

好きな小説や音楽などについて夢中で語り合う二人。

脳みそがとろけあい、お互いが自分の分身のように感じられる喜びと快楽。記憶を捏造するまでもなく、私にも覚えがある。

自分はひとりぼっちじゃなかったんだと確信するときの心強さと高揚感は、なにものにも替えがたい。

 ものすごい熱量で好きなものへの偏愛を綴る三浦しをんさんのエッセイのファンなのと、わたし自身『同じ趣味を共有できたときが、他者とのつながりをいちばん感じる瞬間』と思って生きている節があったので、この一節が特に強く印象に残った。

 

その一方で、この快楽は非常に怖いものだということも、身をもって知っている。

カルチャーに傾倒すればするほど、『好きなものの見せ合う行為=お互いのパーソナリティをさらけ出す行為』という錯覚に囚われてしまい、深いつながりを持つために細部まで言葉を尽くすことをサボってしまう。少なくとも、わたし自身はほんの少し前までそういう人間だった。数々の失敗を経て、大好きなカルチャーと適切なバランスが取れていないことにやっと気づいた。遅すぎるくらいだと思う。

あと、深いつながりを持とうとする過程で、今まで築いてきた関係性が壊れてしまうのが怖い。せっかく広い世界の中から、同じものを愛するいわば”分身”のような存在に巡り合えたのに、またひとりぼっちになるのが怖い。

失うのが怖いからこそ、ときには本心ではない『演技』も交えながら、大切な分身との時間を紡いでいく。一歩間違えればバランス感覚を失ってしまうけれど、「あなたと好きなものを分かち合っている時間はとても尊いものですよ」と、いちいち花束を渡して証明しているような荘厳さを秘めた行為でもあって、そう想える相手に出会うことで人生を彩っていくんだよなあ…人は…と改めて思った。悟り?

 

それこそ、マッチングアプリなんて好きなものの見せ合い行為の真骨頂みたいなもんだ。マッチングアプリでしか恋愛をしたことがないので、わたしの恋愛観はマッチングアプリにほぼほぼ支配されている。いいことなのか悪いことなのかは誰にもわからない。けど、これも自分でバランスと舵を取れるかどうかにかかってるんだと思う。

自己紹介文だけでは表現しきれない自我を、各種カルチャーのコミュニティに入ることで表現していた。それこそ、見る人が見たら『カルチャーの表層だけ掬ってアクセサリー感覚で身につけている』と揶揄されても致し方ないくらいに。でも、そう他人と自分自身をも揶揄するたびに、じゃあカルチャーとの正しい向き合い方ってなんなのよ、という疑問に陥る。『ふたりは(特に麦くんは)本心ではカルチャーを愛していないのでは?』という評にも、同じような疑問というか違和感を持っている。

正しさなんて、個人それぞれの尺度でしかないのだ。極論だけれど。

今はこんな極論しか出せない。もう少し解像度が上がったら、また違う答えが見えてくるんだろうか?

 

少し前まで『好きなものが一緒だ!わたしたち分かり合えてる!』という錯覚を抱きつつ男性と接していた自分にそっと今の気持ちを教えてあげたいし、愚かな過去の自分がやった失敗を経て上がった解像度でこの作品を観られて良かったなあ、とも思う。まだぐじゅぐじゅとした頭の中なのには変わりないけれど、ぐじゅぐじゅ度がほんのちょっとだけマシになってきた。気がする。

 

(はじまりは、おわりのはじまり)

出会いは常に別れを内在し、恋愛はパーティーのようにいつか終わる。だから恋する者たちは好きなものを持ち寄ってテーブルを挟み、お喋りをし、その切なさを楽しむしかないのだ、と。 

 

 絹ちゃんが愛読していたブログ『恋愛生存率』の筆者・めいさんの死を経て麦くんと海に行くシーンがいちばん好きだ。

それぞれ持ち寄った『好きなもの』が主役ではなく、あくまで主役はパーティーに興じている自分たち自身だけど、"いつか終わる"というある意味で無機質かつグロテスクな現実と向き合うのは怖い。つい、現実を曖昧にごまかしてしまう。目的と手段をわざと入れ替えて、ぐちゃぐちゃに散らかしてしまう。

恋愛というパーティーをどう延命させられるかも、自分のバランスと舵取りにかかっているのだという、残酷だけどありふれた事実。ありふれているからこそつい忘れがちなことを、改めて脳内にピンで留められたような気がしていて、ついチラチラと目で追ってしまう。『花束みたいな恋をした』を観て、ずっとそんなことを考えていた2021年2月だった。

 

恋愛感情なんていうのはね、一時の気の迷いよ。精神病の一種なのよ。

10年前に涼宮ハルヒという少女がわたしに教えてくれたことは、きっとおそらく本質だったのだなあと、歳を重ねるごとに実感する。

でも、精神病のひとつやふたつ患っていたほうが、この複雑な世界を生き延びやすいのでは?とも、だんだん思うようになってきたりもする。

まだ、苦しいなあ、と感じるときのほうが多いけれども。

 

好きなものを分かち合うことは、脳がとろけるくらい快楽にあふれた行為だけれども、それを本質と捉えるかきっかけと捉えるかで、舵取りは変わってくる。

長い年月を経てそれに気づいたであろうふたりだからこそ、同じトーンで互いに惹かれつつある若いカップルを見て泣いたし、たぶん空気階段のコント『anna』に出てくる山崎くんと島田さんを見ても泣くと思う。もういないけど、確かに幸せだったふたりの姿をそこに見出すから。

 

ひとの恋愛に関するぐじゅぐじゅした感情を無理やり引き出してくるような作品、やっぱ好きだなあ。つい触発されて、わたしも自分の臓物の煮凝りをこんなに大量に並べ連ねてしまった。

この映画を観て考えたこと、それこそファミレスで深夜まで語り合いたい。「別れたあとのほうがいろいろ話せて仲良くなれるよね」「わかる〜〜〜〜〜!!!!!」とか言い合いたい。実際に元彼と別れたあと、元彼からはFXでそこそこ溶かしていて貯金が全くないことを聞いたし、わたしもずっとひた隠しにしていたリボ払いの存在をやっと明かせた。そういう、この映画によって引きずり出された『ある記憶』の話がしたい。

そのリボ払いもこないだやっと完済できたし、居酒屋じゃなくてファミレスがいい。はやく、そういう集いが気兼ねなくできる世の中になりますように、という祈りも込めつつ。

 

クロノスタシス

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  • きのこ帝国
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僕らはここでお別れさ

僕らはここでお別れさ

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 映画を観終わったあと、多摩川沿いの喫煙所でタバコを吸いながらこの2曲を繰り返し聞いた。

予想していたよりもAwesome City Clubの見せ場が多くて、いちファンとして純粋に嬉しかった。


Awesome City Club / 勿忘 (MUSIC VIDEO)

『勿忘』、最近のリリースの中でも特に好きなので、テレビ番組などでも披露されているのが嬉しい。サビにかけてブワッと色がつくような、それこそ花が開いていくような展開のドラマチックさたるや。聴くたびに心が震える。

 

個人的には『燃える星』も、終わりゆくふたりを彷彿とさせるよな…と思いつつ最近よく聞いてる。

燃える星

燃える星

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掛け違えたボタンに 気づかないまま
それとなく やりすごす日曜日
君が見たいねって言ってた 映画は結局
見ないまま メモ帳に残ってる

Awesome City Club 燃える星 歌詞 - 歌ネット

 

あと、最後にひとつ物申したいことがあって、天竺鼠のワンマンライブは絶対に行った方がいい。これも紛れもない真実だ、と声を大にして言いたい。